その理由のひとつは、「脳はエネルギーとしてブドウ糖だけを利用する」と長く考えられてきたからです。
この考えは、「血液脳関門」という防御バリアに起因します。
脳に入る血液は、このバリアを通過する時に有害物質が取り除かれます。
ブドウ糖はこのバリアを通過できますが、脂肪を分解して合成されたもうひとつのエネルギー源の遊離脂肪酸は、分子量が大きすぎて通れません。
これが、ブドウ糖が脳の唯一のエネルギー源と誤解されてきた背景です。
しかし、同じ遊離脂肪酸から合成された分子量の小さなケトン体は、血液脳関門を通過してエネルギーとして活用されていたのです。
生化学の黎明期に活躍し、数々の功績を残されたハーバード大学のジョージーケイヒル博士は「脳が好むエネルギー源は、ブドウ糖より3‐ヒドロキシ酪酸であり、人類の脳の進歩にとって不可欠である」として、その根拠をグラムあたりの熱量と、モルあたりの酸素消費量のATP生成効率から求めました。
そして、3‐ヒドロキシ酪酸こそ、脳にもっとも適したエネルギー源だと指摘しています。
ただし、「脳がケトン体をエネルギーとして100%使えるわけではなく、多少のブドウ糖はとらなければならない」という意見もあります。
たとえば、『ガイトン臨床生理学』(医師用の生理学の教科書)によれば、「イヌイットはときどき完全脂肪食を摂取するが、通常ブドウ糖しかエネルギー源として利用しない脳細胞も、この時は50~75%のエネルギーを脂質(ケトン体)から得られようになる」と書かれています。
カナダやグリーンランドの極北で暮らすイヌイットは、魚や獣(アザラシんどの生肉を主食とし、野菜や炭水化物はほとんどとりません。しかし、獣の生血や肝臓には、ビタミンやグリコーゲンが豊富に蓄えられており、生で食べれば糖質をまかなえます。
また、私たちが糖質制限を行ない炭水化物を完全にシャットアウトしても、野菜や果物、肉類には、微量とはいえ糖質が含まれます。
このように、食事をしている限り、糖質を完全にゼロにすることは不可能なので、わずかでも摂取したブドウ糖が脳に回っているとも考えられます。
その際のブドウ糖とケトン体のエネルギー使用割合については議論が分かれますが、いずれにしても、ブドウ糖だけが脳のエネルギー源というのは大きな誤解だったのです。
関連参照:
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