2015年5月7日木曜日

ヒトゲノム編集。どこまで?

自然や、将来ヒトとなる受精卵をどこまで改変してよいのだろうか?

ヒト受精卵の遺伝子改変を試みたとする中国の研究者の論文が4月、科学誌に掲載され、波紋が広がっている。


世界で注目を浴びた理由は、ゲノム編集という技術をヒト受精卵に使った初めての報告例だったからだ。

 
ゲノム編集とは、特別な酵素を使い、効率的に遺伝子を切断したり置き換えたりする技術のこと。


蒸気機関にジェツトエンジンが取って代わるような革新的な技術」と期待され、作物や昆虫、家畜などの分野では「設計通りに遺伝子を改変できた」と報じる論文が急増しているようだ。


2013年に登場したこの最新の酵素は、利便性やコストの面でも優れており、多くの研究者が実用化に向け、実験を進めている。

従来の遺伝子組み換えは成功するまでに労力と時間がかかっていたが、ゲノム編集ではほぼ狙いどおりに改変できるのだ。

その目的はさまざまで、「病原菌に強い作物にする」「消費者に好まれる香りに変える」ことなども可能なのだ。

医療の分野では、エイズ患者に、ゲノム編集でウイルスの影響をなくした免疫細胞を投与して治療する臨床試験が進んでいる。

ヒト受精卵をゲノム編集し、遺伝性の病気を防ぐことも理論的には可能だとされているが、現在のところ、

次世代への影響が予想できず、多くの国でヒトの生殖細胞の遺伝子改変は禁じている。
 
今回の中国の論文を、ネイチャーなどの有名科学誌は倫理的問題も考慮して掲載を拒否したという。
 
今後、ゲノム編集に対する何らかの規制が必要なことは間違いないが、残念ながら、国内の状況はその時代への備えがまったく不十分と言わざるを得ない。
  
指摘されている問題点として、
・遺伝子組み換え作物については、生物多様性の確保のため、規制する法律があり、国が影響を審査し、承認された作物しか使えない。しかし、ゲノム編集は突然変異と見分けられないケースもある。改変の痕跡が残らないとなると、現行の法規制の対象から抜け落ち、広まる恐れがある。

・医療では、不妊治療クリニックで技術乱用される恐れが否定できない。
国内には生殖医療に関する法律はなく、生殖細胞の遺伝子の改変は指針で禁止されているだけで強制力は弱い。親が望む特徴を持つ子を作る「デザイナーベイビー」が現実化する恐れがある。


ゲノム編集の農業への応用に関しては、日本学術会議が現状と課題をまとめ、議論を続けているようだ。

消費者の知る権利の確保も含めた規制のあり方などが議論されてしかるべきだが、国はまだ重い腰を上げていない。 

私たち人間は、自然や、将来ヒトとなる受精卵をどこまで改変してよいのか。その危険性と利益、生命倫理の観点から社会全体で対話を深めていく必要がある。



参考:
ゲノム編集の凄さ



関連参照
つまらんことでしょうか
スリムさんの感想
はてなブログ
遺伝子検査で何がわかるのか?
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